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藝大リレーコラム - 第七十六回 三ツ松けいこ「春期オリエンテーション」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第七十六回 三ツ松けいこ「春期オリエンテーション」

 4月、周りの人に支えられながら右も左もわからずに、やって来る球を見送ったり、たまに手を出しては外したり、打ち続けながらあれよあれよという間に、新一年生と共に春期オリエンテーションを迎える運びとなりました。私は、20数年間続けてきた「映画美術」という仕事をこれから映画を作りたい若者たちに伝えることができるのか???何をどうして伝えれば世代の違う未来の先鋭たちに繋げていけるのか???そんなことを日々考えていました。

 が、この先鋭たちが皆、面白い。個性というものは国民性もあると思いますが、それだけではなくやはり人間は一人ひとり違うもので、皆、考え方も違えば行動も違いそして個々に想いが溢れています。

デモ用のセット

 今回の春期オリエンテーションは、一つの脚本をデモンストレーションとして見本撮影をした後、学生が4班に分かれて1日づつ撮影をしていきます。元の脚本は、「ある二人の学生が遺体保管業務のアルバイトをしている」設定です。学生が自由に撮れるようにと各班ごとに一年生脚本領域の学生が台詞の一部分を変えたところ、各班4班とも登場人物と主な設定は同じでも内容が全く違うものになり、一つのアパートで起こる5分のドラマが見事に別作品となりました。オリエンテーションとしてはレベルが上がったのではと思う内容です。これを同じアパートのセットを利用し、班ごとに飾りかえが必要なのですが、私が当初思っていた以上に、手の込んだ美術装飾となりました。デモ用の飾りは2年生に担当してもらい、これもまた個性が出るのですね。私が考えていたものとは違う側面から切り出していて感心しました。

 A班は鶴の恩返しを思わせる少し寓話のようなお話。以前女の子が住んでいた設定を繊細に表した飾りが見事。B班は殺人犯の要素が入りサスペンスのような内容。飾りも犯人を追求する主人公の性格が表現されていて荒々しい感じ。C班は遺体が半分生きているというファンタジーであり切ない話に。元の脚本に書かれた、前の住人の残した家財道具という設定をお話の邪魔にならない絶妙なバランスで表現。D班は元の脚本を一番変えていないものの、演出や美術の個性が表れていて、独特な世界観が異国のようにも感じるミニチュアのような部屋が作られました。

 完成された全作品を観て感じたことは、映画というものはいくつかの方程式を持って作り上げますが、完成したものに答えはなく、作り手の感性やその時にしか表せない偶然や様々な事情も絡みながら表現される芸術作品なんだと改めて思いました。そして、同じ内容でも作り手によって全く違うものになる事が面白い。

 そんなこんなで始まりました、先生業。学生の感性を十分に引き出し、吸収しながら私自身も成長するように日々精進して参ろうと思う所存でございます。
 夏の実習も楽しみです。

A班

B班

C班

D班


【プロフィール】

三ツ松けいこ
東京藝術大学 大学映像研究科映画専攻 教授 1972年生まれ、千葉県出身。1995年日活芸術学院美術科を卒業後、撮影現場に見習いとして入る。小道具を3年ほど経験してから美術助手に転向。 主な美術作品に、是枝裕和監督『誰も知らない』『海街diary』『万引き家族』『怪物』、西川美和監督『ゆれる』『ディア?ドクター』『永い言い訳』『すばらしき世界』、池田千尋監督『東南角部屋二階の女』、山戸結希監督『溺れるナイフ』、瀬々敬久監督『8年越しの花嫁』、中田秀夫監督『終わった人』など。